■ 掲載開始日 : 2021年04月30日
■ 最終更新日 : 2021年04月30日
 自身初の大画面有機ELです。
 期待していた画素粒度の完全黒表現だけでなく、色域でも常軌を逸した性能を誇る最先端のディスプレイです。
購入動機
外観
画質設定
色間引き対応
輝度抑制
キャリブレーション
表示遅延
HDR
Filmmaker Mode
まとめ

購入動機

 これまではKD-85X9500Bを使っていましたが、新居への引越を機に家族用のリビングテレビとなりました。

 自分のPC用ディスプレイは、これまでディスプレイの遅延計測用として使っていたRDT234WXを替わりに使っていましたが、
画面サイズや解像度が、これまでから大幅低下となり不満が募ったので新たに購入することにしました。

 世の中では大画面有機ELが台頭してきましたので当然それ狙いとなりました。
 画面サイズは、PC用デスクの大きさやスピーカーの配置等による制約により55型まで。
 そして新生活でお金に余裕がなく、安価なものが良かったのですが、LGのOLED55BXPJAは比較的安価でありながら、
ゲーム向けの機能が充実していたり、映画を制作者の意図通り忠実に表示するFilmmaker Modeを搭載していたため、これを購入しました。

外観

 LGの55型でスピーカーはKEFのT301ということで、以前LZ9600を所有していたときとよく似た構成となりました。
 狭額ベゼルのスタイリッシュなデザインも同様です。
 側面から見たところ。
 下半分はそこそこ厚みがありますが、上半分はスマホやタブレットより薄いです。

 全面薄くて壁にピッタリとポスターみたいに貼れる製品もラインアップされておりビックリしました。
 ブラウン管時代から続いてきた「テレビはインテリアを阻害するもの」という考えに終止符が打たれました。

画質設定

 空間/時間方向に作用するフィルタ等はかけず解像感や動きの滑らかさはソースに忠実にしつつ、輝度レンジや色域は幅広くする方針を採ります。
 詳細は後述するとして、まずは結果から。
 「映像モード」はSDRソースのとき、「HDR映像モード」はHDRソースのときに適用できます。
 映像モード名の後の「(ユーザー)」は初期設定から変更した場合に付きます。

 映像モードは多数あり、最初は低遅延でかつホワイトバランスを細かく調整できるゲームモードが良いと思ったのですが、
色域が狭い点が不満だったので、ホワイトバランスの細かな調整はできないものの色域が広い標準モードが総合的に良いと感じました。
 ただし、これはSDRソースの場合の話で、HDRソースの場合は、ゲームモードでも広い色域(ワイド)を選択できるようになるので、
HDRソースであればゲームモードが最も良いということになります。
 しかし、残念ながらHDRソースでのキャリブレーション環境を所有しておらず、ホワイトバランスの細かな調整ができないので、
今回は評価しておらず上記の表にも設定値を掲載していません。

 Filmmaker Modeはその意義を考慮し、設定変更なしで評価しました。

色間引き対応

 KD-85X9500Bのときとは違い、今回はHDMI2.1対応なので4K/60pでも4:2:0のような色間引きとは無縁・・・と思っていたのですが、
どの映像モードにしても色間引きが生じてビックリ。

 色間引きが生じないようにするには以下のように映像入力のアイコンを変更する必要があります。
 購入時は入力アイコンがHDMIになっています。
 これを画面右上の設定からPCのアイコンに変更します。
 これで色間引きが解消されます。
 以下、左がHDMIアイコン時、右がPCアイコン時です。
 HDMIアイコン時、縦線は横方向に移動させると明暗が変化し、横線は縦方向に移動しても変化無しなので、4:2:2のようです。
 PCアイコンにすると、縦横ともに移動による変化が無くなり、同じ明るさで表示されます。
 黒バックのときは縦線の明暗や滲みが目立ちます。
 これもPCアイコンにすると改善されるのですが、どうも横線に比べて縦線が明るいです。
 4:4:4にはなったんだろうけど・・・。
 こちらも気になる結果が。
 HDMIアイコン時に色境界に滲みが見られるのは分かりますが、PCアイコン時にもシャープな色線が・・・。
 この現象により、Windowsのフォルダアイコンの左端に不自然な赤線が生じて気持ち悪いです・・・。
 色々設定をいじって見たものの特に影響がありそうな項目は見当たらず、何等かの適応処理が働いているものと思われます。

輝度抑制

 白などの明るい部分が多いと有機ELの発光が弱められ映像が暗くなります。
 また、明るい部分が少なくても、その分布に大きな変化ない状態が続くと徐々に暗くなります。

 消費電力や発熱を抑える必要があってのことなら納得(もっと良いグレードのものを買えということ)ですが、
 もし焼付きにくくするためだけの措置なのであれば、ここまで露骨だとストレスですし、焼付き覚悟で抑制しない設定にできても良かったのではないかと思います。
 ColorMunki DesignCalMAN v4を使って輝度を計測してみました。
ゲームモード
標準モード
 上の写真のようなフルスクリーンの白100%の場合の輝度はこの通り。
 50ピクセル四方の白100%の場合は・・・。
ゲームモード
標準モード
 この通り2.4倍ほど高くなります。
フルスクリーン
50ピクセル四方
 Filmmaker Modeの場合は有機EL輝度設定が25と低めなため、差が出ませんでした。
 この25という設定値は、ゲームモードや標準モードでも白面積で輝度差が生じない(一律約100cd/m2)ギリギリの設定値でした。

キャリブレーション

 色温度6500K(D65)を目標に調整します。
 ■映像モード:ゲーム
 前述の通り、ゲームモードではホワイトバランスを細かく調整でき良い結果が得られました。
 ガンマもしっかり2.2。
 ところが色域は狭め。
 設定は「自動」固定ですが、色域の広い「ワイド」相当にはされないようです。
 ■映像モード:標準
 標準モードではホワイトバランスを細かく調整できず、少し青味が強いですが・・・
 色域は広いです。
 この図、よく見ていただきたいのですが、赤点の計測結果が原点になっています(図中の黄色矢印)。
 これ、どうも

赤の色域が広すぎて計測不能

 のようなんです・・・。

 こんなことは初めてです。
 センサーは分光式で決して悪いものではなく、このディスプレイの発色能力が如何に優れているかを物語っています。
 この有機ELパネルは、白く発光する有機EL素子とカラーフィルターの組合せであり、
有機EL素子を直接赤く発光させる方式と比べると発色性能は劣るはずですが、それでこの結果とは末恐ろしいです・・・。
 この色域の広さが魅力で、基本的に標準モードを使うことにしました。
 ガンマはしっかり2.2。
 ■映像モード:Filmmaker Mode
 Filmmaker Modeは無調整ですが、ほぼ6500Kなのは流石。
 BT.1886ということでガンマは2.4です。
 「RGB Balance」で低輝度のレベルが下がっているのはこのせいかな?
 色域は標準モードと同じ「ワイド」設定ということもあり同様の広さです。

表示遅延

 今回も内部遅延0.1フレームを誇るRDT234WXを基準として評価してみました。
 まず、標準モードでは約136ms≒8フレームと、格ゲー等シビアなゲームではプレイに支障が出るレベル。
 低遅延が期待できるゲームモードでは約68ms≒4フレームと小さくはなりましたが、KD-85X9500Bの2フレームには及ばず。
 ゲーム用途として低遅延もアピールしていたので、ちょっと意外な結果です。

HDR

 本機は当方にとっては初のHDRソース対応ディスプレイです。
 前々から気になっていたHDR映像を観てみます。
 PS4はHDR出力に対応しており、設定でSDRとHDRを切替えることができます。
 HDRソースの場合は受信時に画面右上にHDRである旨が一時表示されます。
 詳細な入力形式を確認するためのコマンドがあります。
 「チャンネルスキャンと設定」にカーソルを当てた状態でリモコンの1ボタンを連打します。
 するとこのように各種ステータス情報が表示されます。
 さらに「HDMI Mode」を選択すると、
 HDMIに関する詳細情報が表示されます。
 PS4でHDR出力を設定したので、画面左上でHDR10と表示されています。
 グランツーリスモSPORTのHDR映像をチェックしてみます。
 まずはSDR映像から。
 次にHDR映像。
 SDR時とHDR時を交互に切替えて比較し易くした画像です。
 太陽を見ると、HDRの方はSDRと比べて白飛びしている部分が小さく、また最高輝度部分もより明るいです。
 地面を見ると、HDRの方はSDRと比べて暗い部分がより暗くなっています。
 HDRが、輝度レンジを広げ、より多くの範囲に諧調を割いていることが分かります。

 ただ、よく比較したら分かる程度であり、SDRでも画質設定で輝度レンジを広く使うことはできますし、
それで特に諧調の粗が目に付くといったこともなく、そこまで重要度は高くないといった印象です。
 エントリークラスの有機ELテレビということもあって、HDRディスプレイとしてはピーク輝度がそれほど高くないからかもしれません。
 この点に於いてはまだまだ液晶が優位かもしれませんね。
 こちらはYoutubeでの4K HDR映像ですが、このような暗部に浮かぶ赤いライトの実在感はかなりのもので、
本ディスプレイの性能が遺憾なく発揮されているシーンだと感じます。

 以下、引続きYoutbeの4K HDR映像を観ていきます。
 こちらは家電量販店のテレビ売場でよく目にしたLGのデモ映像。
 自発光素子の長所を、これでもかと言わんばかりに見せつけます。
 暗闇の中で飛散する赤い粒子のシーンは、エリア駆動バックライトの液晶でも光漏れで悲惨なことになりますが、本機では見事に描き切っています。
 このデモは恍惚としながら何度もループ再生して見入ってしまいます(←危ない人)
 こちらは公開が予定されている「TOP GUN MAVERICK」のトレーラーです。
 こちらも陰影の深さや精細感が際立っており、フィルムの味がしっかり出ています。
 本作は若い頃に何度も見返した前作の続編ということで、とても楽しみにしています。

Filmmaker Mode

 映画制作者の意図に忠実に表示する映像モードとして業界で規格策定されたFilmmaker Modeは、
同様のポリシーでディスプレイと向き合ってきた当方にとって注目に値する機能でしたが、
映像ソースがSDRかHDRかで表示に大きな違いがあることが分かりましたので紹介します。
 検証対象は「インターステラー」のワンシーン。
 まずはYoutubeの4K HDR映像ですが、HDR映像モードでのFilmmaker Modeでは有機EL輝度が100と最高値で明るく、見栄えの良い画となっています。
 一方こちらはBlu-rayの2K SDR映像。
 前述の通り、SDRの映像モードでのFilmmaker Modeでは有機EL輝度が25と暗いです。
 映画製作者の意図に忠実に表示という手前、前述の輝度抑制を嫌ってこの設定値にしたのかと思いましたが、HDR時は100となっているので違うようです。
 良く言えば映画っぽいですが、やはり物足りなさを感じます。
 これなら、調整した標準モードの方が、HDR映像モードでのFilmmaker Modeに近くて良いです。

 一口にFilmmaker Modeと言っても、画質設定の項で記した通り、SDR映像とHDR映像ではガンマ値すら異なっており差が大きいです。
 この違いを見る限りでは、Filmmaker Modeの本命はHDRソースなのでしょう。

 余談ですが、検証に使ったこの回転ドッキングのシーンは、史実のジェミニ8号のトラブルがダブって観る度に涙が出ます。
 シチュエーションは違えど、ソビエトに先んじての月面着陸実現に必要な成果が懸かる中、
計画を致命的に遅らせかねない選択と自分達の命とを天秤にかけた決断を迫られたニール・アームストロング船長の当時の苦しさは相当なものだったはずです。

まとめ

 妙な色滲みや輝度抑制といった欠点はあるものの、やはり自発光素子による画素粒度の究極の黒表現や色域の広さは圧倒的な魅力です。
 しかも55型でこの画質が20万円を切るとか、すごい時代になりました。
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